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【Innovater’s Talk 】エデュリー菊池翔豊×三戸 Vol.2「子どもの主体性を伸ばす9つの要素と科学」

今回ご紹介するビジネスのプロフェッショナル「ビジプロ」は、19歳で起業し、地域に根差した「世界にひとつだけの保育園」を各地で運営している株式会社エデュリーの代表取締役社長、菊地翔豊さんです。

前回は、菊池さんの「19歳で保育園を起業した舞台裏」をお伝えしましたが、今回は「子どもの主体性を伸ばす9つの要素と科学」をお伝えしたいと思います。

この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜20時30分からお送りしている番組ビジプロで放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさいなどの書籍や、個人M&A塾サラリーマンが会社を買うサロンで知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの対談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。

音声アプリVoicyでは、ノーカット版「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。

幸運な出会い

エデュリーは最初、認可外保育園からのスタートとなり、さまざまなハードルもありました。そんな状況が大きく前に進んだのは、幸運な出会いがきっかけでした。

私が当時、ビジネスと並行して通っていた慶応大学で、仲の良かった同級生がいました。その同級生のおばあさんが東京の小岩の大地主で、あるとき、そのおばあさんの家でパーティーをしようとなりました。

家におばあさんは不在で、学生が20人くらい集まってのパーティーですから、大騒ぎになりました。でも、その盛り上がっているときにおばあさんが帰ってきてしまい、家の状況におばあさんは怒りました。それでパーティーはお開きになり、学生たちは逃げるように帰りました。

でも私はそのまま帰るのは嫌だと思って、ちゃんと謝ろうと、もう一度おばあさんの家に行きました。私はかなり怒られることになったのですが、おばあさんからは、「ほかの子は逃げたのにあんたは偉い」と言われました。

そしていろいろな話をするうちに、私の保育園事業の話になり、おばあさんから「私、保育園を作りたいと思っていたから、出しなさいよ」と言われて、おばあさんから援助を受けて、小岩で保育園をやることになったのです。

ちょうど、企業主導型保育事業という新制度が始まるときでした。私たちはその制度を使おうと、正式決定前から内閣府に問い合わせをしていました。その準備も功を奏して、おばあさんから援助を受けた小岩の保育園は、企業主導型保育園として出すことができました。

その保育園は駅の目の前でした。保育園事業では、駅に近いほど利用者のニーズが高いですから、面取り合戦のところがあります。より駅に近い保育園が出てくると、その外側にある保育園は一気にニーズを失ってしまうのです。

そうなると行政としても、補助金の無駄遣いと言われないように、そこに補助金を出せなくなります。そういう意味で、駅の間近に、公的補助金を受けた保育園を出せたのは、私たちの事業が前に進む大きなきっかけとなりました。

その後、小岩ではもうひとつ、保育園を出しています。こんな幸運をくれた同級生のおばあさんには頭が上がりません。

徐々に軌道に乗り始める

当時は、待機児童問題が高まっていた頃ですから、施設を作れば利用者は集まると思っていました。しかし現実はそう甘くはなく、埼玉県の川口でうちの2つ目の施設として始めた保育園では、最初の1~2ヶ月は全然、利用者が集まりませんでした。

私たちはこのままだとヤバいとなってから動き始めました。「川口 保育園」で検索すると出てくるようにSEOを頑張ったり、電話番号と園児募集中と書いた大きなポスターを駅前に貼ったりしたことで、かなり集まるようになりました。

当時、私はまだまだ若かったため、ベテランの保育士である園長が前面に出ていましたが、施設が増えるにしたがって、自分が前に出ることが多くなっていきました。

エデュリーのやっていること

エデュリーがほかの保育園と異なるところは、大きな要素として2つあります。1つは「世界に一つだけの保育園作り」です。ほかの保育園だと、○○保育園大森、○○保育園品川というように、コピー&ペーストで同じようなものを作っていくのですが、私たちの保育園は、一つ一つ園名が違いますし、ロゴや内装が違います。あえて、地域ごとに園名を変えたり、特色を変えたりということをやっています。

もうひとつが、「子どもたちの主体性を育む」ことを大きなミッションにしていることです。エビデンスベースの保育という、保育を科学するみたいなことをやっています。

客観化がない保育業界

保育業界は「客観化」がすごく遅れている業界だと思います。たとえば、お子さんをどう育てるのか、その教育によってどんな子に育つのかというところが、掛け声やスローガンのような言葉としてはありますが、その教育に再現性があるのかという意味では、それはないのが現状だと思います。

保育業界は「客観化」がすごく遅れている業界だと思います。たとえば、お子さんをどう育てるのか、その教育によってどんな子に育つのかというところが、掛け声やスローガンのような言葉としてはありますが、その教育に再現性があるのかという意味では、それはないのが現状だと思います。

私たちは、それを見える化する保育をやっています。お子さんを預かって、その子が0歳児のときはどんな子どもで、その子にどんな教育がなされ、その子が5歳児になったときにはどんな子どもに育ったかを、記録に取って検証できるようにしているのです。

うちの保育にはいろいろなカリキュラムがあります。そのカリキュラムを、園によって少し変えていて、子どもたちの活動と発達状況の記録を取って可視化すると、それぞれのカリキュラムが子どもたちの発達にどんな影響があったかが検証できるようになります。

重要なのが、子ども一人一人の個別最適化です。子どもたちの発達状況はそれぞれで、一人も同じ状況の子はいませんから、預かった時点での状況を把握して、その子にはどんなふうに育ってほしいかの目標を定めて、どんな教育を与えるべきかを、ひとりひとり考えるのです。

子どもたちはそれぞれ違うとはいえ、やはり似ている子はいます。ですからアートが好きな子だったら、似た傾向の子どもの発達状況やふさわしかったカリキュラムから、その子にふさわしいソリューションはどれかと考えて、与える教育を決めていくのです。

子供の主体性を伸ばすために

私たちは「主体性の能力」を、自己理解(自分が何者かであることがわかる)や自己効力感(自分は成功できると思える能力)、セルフコントロール(自分を律することができる)などの9つの要素で区切って見ています。

その9つの要素という物差しから、その子の発達状況を見て、その子の足りない部分、成長させたい部分を考えます。自己効力感を育てたければこのカリキュラム、セルフコントロールを育てたければこのカリキュラムというように、それぞれの子どもにあったカリキュラムを考えるのです。

「主体性を育みます」と言葉で言っている保育園はたくさんあります。でも私たちのように、主体性というものをしっかり要素に落として、その各要素を上げるためにどういうソリューションや保育があるべきかと、科学的にやっている事業者はあまりいないと思います。

カメラによる記録をベースに

そんな科学的な保育のためには、カメラで子どもたちの活動を記録することがベースになります。記録された子どもたちの活動データがあることで、その子の活動、発達状況を確認、検証できるようになるのです。

保育士1人に対して子どもは20人前後いますから、ある子どもがその日何をしていたのか、たとえば友達との遊びにはどのくらいの時間を使い、一人遊びの時間はどのくらいだったのか、それに対して保育者の介入はどのくらいの時間だったかと、細かく把握することはできません。

でもカメラを使えば、子どもそれぞれの活動を記録でき、その子の興味や関心がいまどういうところにあって、子どもたちは何に時間を使っているかが見えるようになります。それぞれの子どもの活動記録から、その子の発達状況は数値ではこうなっているので、こういうことをしましょうというアドバイスが保育士にできるようになるのです。

私たちにとって大事なのは、子どもたちの興味や関心がさらに発展して展開するように、保育を設計していくことです。たとえば、トマトの栽培を実際にみんなですると、机上遊びで、トマトをブロックで再現してみようという遊びが始まったりします。そんなふうに、保育者が意図的な仕掛けを施して、子どもたちの興味や関心がさらに広がるよう設計をしてあげるのです。

もちろん、私たちのこの取り組みはまだ途上で、これをやれば絶対に主体性が上がるという方法は導き出せていません。でも、データを蓄積していくことで、将来的に、どんな保育がどんな状況を生むのか、子どもたちの発達状況にどんな変化を与えるのかがわかってくるはずです。

最終的には、主体性を育む教育を、どこの保育園でも再現してできるようにしたいと考えています。そのために必要な記録の蓄積と、取り組みの検証と改善をいま、積み重ねています。

保育の質を上げても上げなくても売上は同じだが

保育園は補助金事業です。補助金は園児数とその保育士の配置数で決まりますから、園児数を確保して、その数に対する保育士を配置しないと補助金をもらえません。行政が求める数値を達成して始めて、1人当たり15万や20万円がもらえるのです。

ですから、私たちの事業はしっかり職員を配置して、しっかり園児を集めることでキャッシュフローが回ります。私は、各園ごとにキャッシュフローが回る状態を作り、そのキャッシュフローの一部を新規事業に投資したり、保育の質を上げるところに投資したりしています。

現状では、良い保育をしようがしまいが、同じ職員配置で同じ園児数であれば、同じ売上になります。だから保育の質をわざわざ上げる必要はないという考えもあります。しかし、いまの少子化は止まりそうはありませんし、一方で国は、生産性を落としたくないとも考えています。保育園事業を巡る補助金の在り方は、いずれ変わると考えています。

OECDは0歳から6歳への投資が一番効率がいいと指摘しています。2001年には就学前教育の重要性を研究で示したジェームズ・ヘックマンにノーベル経済学賞が与えられました。なるべく多くの子どもたちに、幼稚園、保育園で幼児教育を受けさせたいというのは世界的な流れになっています。

わが国も、子どもに幼少期から教育投資をすることで、生産性を上げていこうという方向に舵を切り、幼児教育や保育の無償化を始めましたし、就学前の準義務教育化も検討しています。

保育事業に国は数兆円規模を使っていますが、会計監査院からは、保育事業に投下している補助金は果たして有効なのかという指摘がずっとあるようです。ですから、今後は、幼児教育でより質の高い保育を行っているところに補助金をあげようという流れになると、私は考えています。

保護者も変化すると思います。以前は、とにかく預けたいという状況で、待機児童の問題が大きかったのですが、それもだんだんと解決されて、徐々に保育園が余ってきて選べるようになっています。今後は保護者としては、質の高い保育園に入れたいという流れになってくるでしょう。

現状ではたしかに売上キャップがあって、いい保育をやっている園とやっていない園では同じ売上です。しかし私は、10年後20年後を見据えたとき、その2つの保育園には圧倒的な差が生まれると思って、より質の高い保育を目指しているのです。

次回は、菊池さんの「保育園が芸能事務所と組んだわけ」をお伝えします。

※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組ビジプロの内容をまとめています。

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